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【ケース6】
【ケース2】では、契約書作成の基本をご説明しました。今回は、特に注意すべきポイントの一部を解説します。
- 期限の利益喪失条項
~ 即時・一括で支払ってもらうための条項
- 期限の利益とは?
(即時払いではなく、)「支払期限」を設定した場合、
または、
(一括払いではなく、)「分割払い」にした場合、
支払をする側の当事者は、「その期限までは、支払わなくてよい」
という利益を得ます。
この利益のことを、「期限の利益」 といいます。
法律では、「期限の利益」を失う
(=即時・一括の支払いになる)ケースは、
破産手続開始等に限定されています。
そのため、
‘分割払いの不履行、手形の不渡り、民事再生、他社からの差押’ など、
支払に不安が生じたときに
すぐに債権回収作業(一括払いの請求、民事裁判、差押え、相殺など)
ができるようにするためには、
契約書に、「期限の利益喪失の条項」
を記載しておくことが必要になるのです。
- 期限の利益喪失(当然喪失)条項の例
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【条項例】
「以下の各号の事由が発生した場合、
乙は、本契約に基づくすべての乙の債務につき、
当然に(※)期限の利益を喪失し、
直ちに全額を弁済しなければならない。
(1)・・・
(2)・・・
(3)・・・
(手形の不渡り、分割払いの不履行、倒産手続等)
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※「当然に喪失させる」方法の他、
「債権者側からの通知等があって初めて期限の利益を喪失させる」方法もあります。
- 秘密保持条項
~ 「秘密情報」の定義が重要です。
- 秘密情報の範囲は、当事者間で決める。
「他人に対する開示・目的外使用等が禁じられる秘密情報」
について、法律に明確な定義はありません。
そこで、何が秘密情報に該当するのかは、
原則として、当事者間の契約によって決めることになります。
秘密情報の範囲の定め方としては、主に、以下の2通りがあります。
① 原則としてすべての情報を秘密情報とし、例外を定める方法
(⇒ 秘密情報の範囲が広い)
② あらかじめ、秘密情報の範囲を限定しておく方法
(⇒ 秘密情報の範囲が狭い)
- 「秘密情報」の定義 (例)
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【①の条項例】
「秘密情報とは、本契約において知り得た相手方、並びに、
相手方の子会社・関連会社・役員・従業員及び取引先等の
事業情報及び技術情報その他一切の情報をいう。
ただし、相手方が秘密であることを要しない旨を
開示時又は開示後に書面で指定したものを除く」
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【②の条項例】
「秘密情報とは、本契約に関して知り得た相手方の情報のうち、
相手方が書面にて秘密である旨指定した情報のことをいう」
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- 解除の条項
~ 法律上の解除理由は限定されている。
- なぜ、「解除の条項」が必要なのか。
契約の相手が倒産の危機や支払不能等に陥った場合、
契約を解消させたうえで、
すぐに納品物を取戻したり、清算したりしたいところです。
しかし、法律上、契約を解除できる事由は、
契約義務(債務)の不履行等に限定されています。
そこで、
契約書の中に、法律に書かれていない解除事由
(手形の不渡、差押、倒産手続、営業停止等)を
記載しておく必要があるのです。
- 裁判管轄
~ 遠方の裁判所になっていないか、入念にチェックする。
- 合意管轄とは。
契約に関する紛争が生じたとき、どこの裁判所を使うのか(管轄)を、
当事者の間で決めておくことができます。
当事者間の合意で定めた裁判管轄のことを、
「合意管轄」といいます。
- 「専属的」合意管轄の条項(例)
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【条項例】
「本契約に関する一切の紛争については、
東京地方裁判所を専属(※)管轄裁判所とする」
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※「専属」というのは、
「その裁判所以外に裁判を起こすことはできない」
という意味です。
契約書に専属管轄が記載されている場合、
遠方の裁判所になっていないか、注意することが必要です。